株式上場を目指して代表取締役お兄ちゃんに就任致しました~妹株式会社 原作公式サイト

キックオフ ボク、お兄ちゃんになります!

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「俺の妹になってください!」

 五條田譲(ごじょうだ ゆずる)は、目の前の女の子に向かって斜め四十五度の角度で頭を下げた。
譲の外見はアッシュグレーの長髪によれよれ気味のスーツを着た青年だった。怪しい会社のすり切れた営業マンと見るか、何かの業界のスカウトマンといったところだ。

 場所は日本でも有数の繁華街である渋谷の街路だった。
大きな声でそんな言葉を口にしたものだから、譲の目の前にいる少女はもちろん、道行く人々はみんな一斉に困惑の表情を浮かべながら彼に視線を集中させた。
けれども譲はそんな事などいっさい気にせず言葉を続ける。

「俺がお兄ちゃんとして、あなたを立派な妹にしてみせますからッ」

 そう言葉をかけられた相手は、渋谷系ファッションに身を包んだたぶん高校生ぐらいの少女
だろう。鳶色の眼をした、カワイイよりもちょっとだけカッコイイが前に押し出された女の子だった。
誰かと待ち合わせをしていたのか、あたりを気にしながらキョロキョロしている姿を見かけて声をかけたのだ。
渋谷系ファッションに身を包んで意志の強そうな少女の見た目は、まさに直感的に譲が求めていた「理想的な妹」像そのものだった。

 斜め四十五度のおじぎを維持しながら譲が視線を持ち上げると、そんな理想的な妹像の彼女は、困惑と不機嫌をないまぜにした様な顔で言葉を返す。

「はぁ? 意味わかんないんですケド」

 冷たい視線が譲に刺さった。
誰がどう考えても、見知らぬ男性から渋谷の街中で「俺の妹になってください」なんていきなり声をかけられたら、新手のキャッチかナンパだと勘違いするだろう。
当然の様に目の前の女の子はプイとそっぽを向いて、そのまま足早に去っていこうとする。

「あッ。ちょっ、ま─」
「あんた何してんのよ、触らないで!」

 追いすがろうとした譲は、何とか女の子の手を掴もうとするけれど、

「ちょ、ちが。俺はただパートナーの勧誘を」
「新手のナンパなの?」
「これは違くてビジネスのだな」

 慌てて譲は言い訳をした。

「どうやったら妹とビジネスが繋るのよ、放さないと警察呼ぶわよ変態!!」
「もちろん話しますから」
「だったら早く放しなさい!!」

 噛み合わないままの会話を繰り返していたふたりだったけれど、相手の少女が怒りの表情を浮かべて、掴んいた譲の手を振り払う。

「……変態」
「いや、話を聞いてください」
「変態の話なんか聞きたくないわ。これ以上付きまとったら本当に通報するわよ? 変態……」

 それ以後、少女は無視を決め込んで、そわそわしながら明後日の方向を向いてしまった。
様子を見ていると、まるでスカウトを待っていたかの様な態度でまたそわそわと周囲を気にしている様だった。

「なあ」
「……」
「……お嬢さん、せめて名刺だけでも!」
「…………」

 少しだけ丸い顔に、意志の強そうな大きな鳶色の瞳と切れ長の眼が譲を睨み付けてくる。

「何よ変態、まだここでナンパしてたの?」

 少女は探るような視線で譲を睥睨する。

「いやナンパっていうか、スカウトだよ。ビジネスパートナーを探す」

 慌てて譲が言葉を続けた。

「君こそ、ここで何してたんだ?」
「えっ」
「何だか誰かと待ち合わせしていたみたいにまわりをキョロキョロしていたけれど」

 少女は譲の質問にちょっと驚いた顔をした後、何かをごまかすような態度をとる。

「わっわたしは別に、ちょっと用事があったのよ。あんたには関係ないでしょ!」
「そうなんだ」
「あんたこそ、やっぱり警察に通報した方がいい様ないかがわしいスカウトやってたんじゃないでしょうね」

 ここで焦ってはいけないと、必死で頭脳を働かせ、次の言葉を模索する譲。

「は、話せばわかる! 君が俺の妹になるとビジネスが成立するという簡単なお話さ。やましい事は何もない!」
「あんた、迷惑防止条例って知ってる? わたしが警察に駆け込んだら、あんた逮捕よ」

(イラスト挿絵 挿入)

「本当にビジネスの話だったのに、警察沙汰にするなんてひどい! そんなに怪しい人間に見えるのかな……」
「そんなよれよれのスーツ姿で髪の毛も茶髪にしてるし、普通のサラリーマンには見えないわよ」
「髪の毛か! 失念していた……今日の帰りにドラッグストアで白髪染め買って帰るわ」

 譲ははっとした。

「そのほうがいいわ。あと、あんたがホントにビジネスで妹探ししてるなら、いきなり名刺渡すよりチラシを配った方がいいわよ。あんたが言いたい内容をまとめておいて。今だとただの怪しい出来損ないのナンパ師にしか見えないから」
「ただの怪しい出来損ないのナンパ師……」
「……ふん。あの、さ」
「で、出来損ない」
「聞いてるの? わたしちょっとだけなら時間あるんですケド」
「えっ」

 腰に手を当てて譲の顔を見上げた少女は、言葉を続ける。

「だから、少しだけなら話を聞いてあげてもいいって言ってるのよ! 妹がどうやったらビジネスに繋がるかって話を!」
「お、マジか。時間は取らせないから、それじゃ是非話を聞いてくれ!」
「まさか、ビジネスとか言って酷い事するつもりじゃないでしょうね。エッチな漫画みたいに! あんた青少年保護条例って知ってる!? 」
「違うし、そんな事しねーし! 近くの喫茶店でちょっとビジネストークするだけだし、エロトークとかしねーし!」
「本当にビジネストークだけだからね! 状況次第で警察に突き出すからね!」

その2に続く