株式上場を目指して代表取締役お兄ちゃんに就任致しました~妹株式会社 原作公式サイト

キックオフ ボク、お兄ちゃんになります!

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「狭い部屋だけど、適当にくつろいでくれ」

 日を改めた数日後、譲は品川区五反田にあるマンション六階の自宅兼事務所に舞華を案内した。
こういう場所に来るのがはじめてだからなのか、興味津々という風に舞華は視線をあちこちに向けながら応接用のソファセットに腰を落ち着けた。

「意外と小綺麗にしているのね、ちょっとびっくりしたわ」

 部屋のまどりは1LDKで、キッチンからリビングの広い空間を事務所スペースにあてていた。ひとり暮らしの若者らしく、リビングには少しだけ豪華な応接セットと仕事用デスクを除けば書類や分厚い本が並んだささやかな本棚だけである。生活のための家財道具といえば小さな冷蔵庫と洗濯機がキッチンの脇に並んでいるだけだった。

「まあ自分の家も兼ねてるけど一応は仕事場だからな。来客がある時もあるし、掃除はまめにするようにしてるぜ」

 譲はそう返しながら単身者向けの小さな冷蔵庫の前に立った。

「え、ここ事務所じゃなくて五條田さんの自宅だったわけ?」
「まあ自宅兼事務所だ。たいがい飯は外で食べてるしあんま生活感ないだろ」
「そ、そういう問題じゃないから。事務所じゃなくて男の人の部屋ってわかってるんだったら、簡単に付いてこなかったのに……」

 舞華が慌てて顔を真っ赤にした。

「いや、別にとって食うわけじゃないし……って、まあ年頃の女の子だもんな。すまん」
「ま、まあいいわ。五條田さんに変な事されないように、今日の行き先とあんたの名刺はお母さんに預けておいたから」
「ま、まじかい」

 額に変な汗が浮き出てくるのを感じながら譲が返事をした。

「五條田さんが妙な気を起こしてわたしの帰りが遅かったりしたら、きっとお母さんが警察に連絡してくれるから」
「ちょ、冗談きついぞ! まさかこれからビジネスパートナーになるって女の子に変な気なんて起こさないし。しかも妹だぞ妹ッ」
「で、でもわたしたち仮に兄妹(きょうだい)になったところで血の繋がりもないし、もしもって事があるかもしれないし」

 妙に警戒した表情を浮かべてソファの上で身を引くポーズをしてみせる舞華。
譲はなんとなくからかわれてる様な気がしながらも弁明した。

「だから何にもしないっての! ビジネスの話をするの!」
「ふん。本当でしょうね?」
「本当だとも! 取りあえず落ち着け、飲み物は何にしますか舞華さん。水と牛乳とオレンジジュースしかないけど……」
「妙な取り合わせね。それじゃオレンジジュースをいただくわ」
「へいへい」

 譲はキッチン棚からグラスをふたつ取り出して、オレンジジュースを注いだ。

「はいどうぞ。あんまり変な事は言わないでくれよな、俺ドキドキしちゃうから」

 テーブルにグラスを置きながら譲もソファに腰を落ち着けた。
腕組みをしながら譲は説明を始めた。

「まずこれからの事。会社の資本となる妹には法的な制限がいくつか課される事になるから、それを最初に言っておきます」

「ゴクリ。何かしら……」

「妹資本は、原則としてテレビ出演などメディア活動をした際に報酬を受け取ってはいけない。また歌手活動などを行ってはならない。それから芸能事務所などとマネジメント契約を結んではいけない。これを妹株三原則といって、女の子が妹資本になる際に禁止されている行為にあたるので、気を付ける様に」
「まぁそうよね、わたしは妹資本になるのであってアイドルみたいに芸能人になるわけじゃないもの」
「そういう事。特にこれから企業活動を開始していく段階で少しずつ有名になっていったら、芸能事務所とかのスカウトが近づいてくるかもしれないけど、気を付けてね」
「うん。でも原則として、って事は例外があるの?」
「そうだな。ええと……」

 譲は本棚に手を伸ばして『お兄ちゃんでもわかる妹株式会社設立法』と書かれたソフトカバーの本を抜き取った。

「報酬に関する規定によれば、俺たちは契約したパートナー企業の広告活動やビジネス提案を中心にやっていくので、報酬は必ず契約企業を通して受け取る事になる。ただし、メディア活動のためにかかった交通費等の必要最低限の金額については受け取る事が出来るらしい。それから仮にテレビCM等で歌を歌うような事になっても、これは許される。ただしレコード会社からのCD発売みたいなのに対しては俺たちが報酬を受け取る事は出来ない。契約したパートナーに支払われる事になる」
「ふうん」
「さらに芸能事務所についてはより明確だ」

 某国民的アイドルグループにある種のヒントを得て、そういった要素を期待しながら政府が妹株法を制定した事は間違いないだろうが、芸能人との差別化を明確にするためにこの件については厳しい線引きを用意していた。芸能人は芸能人、経済人である妹資本はあくまで経済人として過度の露出をさせないための規定である。

「もしこっそり報酬を受け取ってる事がバレたりしたら、企業活動停止処分を受けてしまうからな」
「なかなか厳しいのね。でもわかったわ」

 それと、と舞華が少しそわそわした様子で続ける。

「もしも、もしも、よ。読モの依頼が来た時は、この場合どうなるのかしら?」
「モデル依頼が来た時は、それなら活動する事は恐らくOKだ。あくまで雑誌の宣伝をするという契約でね。たぶんいけると思う。だから安心してくれ」
「やった! いや、うん。何でもない続けて……」

 咳払いを一つした舞華が、身をちぢこませて舌を出した。
やっぱり彼女は読者モデルに並々ならない憧れがあるのかもしれない。

「それからこれ、」

 ソファの脇に放り出していたビジネスバッグを引き寄せて、中身を探り一枚の紙をテーブルに出して置いた。

「何よこれ『妹資本募集。お兄ちゃんといっしょにビジネスをやってみませんか?』……」

 舞華が覗き込んだチラシには、妹資本を求める宣伝文句と、簡単な妹株法についての説明が書かれていた。

「これを街で配って、次の新しい妹候補を探そうかなと思ってるんだ」

 紙面から視線を上げた舞華が、どういうわけか譲にジト目を飛ばしてくるではないか。

「ひとついいかしら?」
「な、何だよ」

 舞華の眼光がますます鋭くなる。

「もしかして妹というのは、今のところわたしひとりだったりするの?」
「うん。渋谷にスカウトに出たとき唯一話を聞いてくれたのが舞華だったしね……」
「妹株式会社というのは、妹ひとりで会社設立は大丈夫なの?」
「そ、そうだね。会社を立ち上げるだけなら法的にも妹がひとりいれば可能だよ」
「それで、法的には可能だけど、あなたの理想としては何人必要だとふんでいるのかしら?」
「う、うーんと、俺的にはラブリーマイシスターエンジェルな舞華ちゃんだけいてくれればビジネスは間違いなく成功するって思ってるんだけど─」

 ネクタイを緩めながら譲が言い訳を始めると、

「そういうのはいいから。何人必要なの?」
「理想を言えば三人ぐらい。せめて舞華ともうひとりぐらいいれば、それなりにビジネス展開する上で有利だと思うかな。今のところはお察しの通り、舞華だけしかいないわけだけども」

 青い顔をしながらしどろもどろに譲が説明した。

「で、このチラシを持って渋谷あたりで宣伝活動をするわけね」
「そうだねっ。で、でも舞華が味方に付いてくれたら、今度はもう少しスムーズにいくと思うぜ! 何しろ妹候補の同世代の子がチラシ配りをするんだから、それだけ警戒心は解いてもらえるかと」
「……はあぁぁぁぁ、やっぱりそういう事だったのね!」

 舞華が露骨に落胆の表情をした。

「そ、それとこいつを見てくれ。ど、どう思う?」

 慌てて立ち上がった譲は、いそいそと仕事用机にあるスリープ中のデスクトップパソコンを立ち上げると、ブラウザを開いた。

 そこには妹募集のチラシと同じようなレイアウトの告知文が書かれている。

「どう思うって何コレ、チラシと同じものじゃん」
「会社用ホームページを作る予定でサーバ借りてたんだけど、ひとまずここに妹募集の告知ページを作ったんだわ。今、俺のSNSアカウントにリンクを貼って宣伝しているところ。ほら、そのチラシにもQRコードがついてるだろ?」

 譲がそう言うと、テーブルからチラシを拾い上げて立ち上がった舞華は、モニタと見比べながら譲の方に近づいて来た。

「チラシと告知ページの違うところは、法務省の妹株法に関するまとめページへのリンクが貼ってある事と、お問い合わせフォームと申し込みフォームがある事ね」
「ご名答だ。結構よく出来てるだろ? 俺頑張ったんだぜ」
「もう少し頑張って、わたし以外にも妹を探してほしかったけれどもね!」
「そ、それはおいおい、これからという事で」

 なだめすかすように譲は言うと、告知ページのSNSリンクボタンにマウスカーソルをあわせた。

「ここから宣伝が出来るようになってる。舞華もSNSのアカウント持ってたよな?」
「一応あるわよ」
「舞華もこのページの宣伝手伝ってくれ。流入数を増やしてみんなに知ってもらいたい」
「やるだけやってみるけど。どれぐらい効果があるのかはわからないわね」

 半信半疑という具合で舞華は小さくうなずいた。

「……確かに効果のほどはそれほどでもないだろうな。でも何もやらないよりはましだし、チリシ(リアル)とWEBの両面で宣伝やっていくしかないんだわ。妹探しするためには」

 QRコードを自分のスマホで読み込みながら、さっそく告知ページに飛ぼうとしている舞華。すぐにでもSNSで宣伝をやってくれるつもりなのだろう、譲は内心頼もしい限りだと思った。

「これ以外には誰か個人的付き合いでアテとかないの?」
「俺、女の子の友達とかそんなにいないしさ……」
「そうだと思った」

 よれよれスーツをこれ見よがしに観察しながら舞華が言った。

「でも親戚ぐらいならいるんじゃないの、女の子」
「母方の親戚にひとりだけ、条件がぴったりの女の子が」

 譲は少し複雑そうな表情を作ってそう言った。

「何だ、やっぱりアテがあるんじゃないの。言ってみなさいよ、どういう女の子なのか」

 後ろ向きのソファの背もたれに尻を乗せた舞華が、軽く伸びをするようなポーズを作った後で譲の言葉を待っていた。

「ええと確か引き出しの中に写真があったはず……ああこれだこれ」

 譲は仕事机の引き出しを引っ掻き回して、写真屋のおまけでもらえる簡易アルバムを引っ張り出すと、ページをめくってそのうちの一枚を示しながら舞華に見せてやる。

「東洞院雅美(ひがしのとういん みやび)っていう子だ。確か今年高校三年だから、舞華のひとつ上だな」
「へえ。すごい、かわいいじゃない? どうして最初にその子に話をもっていかなかったのよ?」

 写真には、黒い前髪をアップにしてオデコを出して白い歯を見せる女の子が写っていた。舞華がどちらかというとイマドキっぽい雰囲気の容姿だとすると、写真の少女は丸い目に少し太い眉の、古風な日本人顔という感じだった。
アルバムにはいくつか彼女の写り込んでいる写真があったけれど、どれも笑顔がまぶしいものばかりだった。いかにも快活な印象を与えてくれる。

「い、いや。あくまでも自分の妹になってもらう女の子は、俺がこれだって決めた子の方がいいかなって思って。だから現に舞華さんに必死でスカウトかけたんだぜ?」
「だーから、そういうのはいいから。雅美さんだっけ、その親戚の女の子はどういうひとなの? その子、有力なふたり目の妹になりえるんじゃないの?」
「聞いてみないとわからないけどな」
「じゃあ聞いてみなさいよ。目標三人なんでしょ?」
「そいつ、関西在住なんだわ」

「え? 関西のどこ?」
「京都だ」
「きょ京都かぁ。ちょっと遠いかな?」
「いやちょっとどころじゃないぞ。関ヶ原越えて電車で三時間近くかかるぞ」
「じゃあ新幹線で通勤してもらうとか?」

 舞華が考えなしに適当に思いついた提案をする。

「妹株式会社は東京都内の特区内で登記簿(とうきぼ)を作るのが基本原則になってるから、その子を妹資本にする事になったら、こっちに住所を移してもらわないといけないし、そもそも稼ぎもしないうちから新幹線代金を交通費として支給していたら赤字まみれになって倒産する」

 お互いに顔を見合わせながら、溜息を重ねてこぼした。

「……うまくいかないわね、なかなか」
「……そうだな」

 いまひとつ大きな溜息がふたりから漏れる。

「でもひとつだけ救いがある。そいつの兄貴の方は妹株式会社に結構乗り気なんだ」
「何、そのひとも代表取締役お兄ちゃんになりたいとか」
「いやそっちじゃなくてな。そいつ雅彦(まさひこ)っていうんだけど、大学時代はこっちの学校に通ってたんだ」

「ふうん、それで?」
「東洞院兄妹の実家ってのが京都で料理屋さんをやっててな。このふたりは昔から実家の料理屋を継ぐのをずっと嫌がってたんだ。兄貴の方は逃げ出すつもりで東京の大学を受験したんだけど、結局卒業するタイミングで実家に連れ戻される事になった」

 譲は仕事机の安楽椅子に腰を落として言葉を区切った。
学生の頃は、歳も近く東京住まいの東洞院雅彦とよく遊びに出かけたものだったと思い出す。

「そ、そうなの」
「雅彦は料理屋の息子の癖に致命的に料理が下手だし嫌いだったからな。それで今でも何とか実家の束縛から逃げ出せないものかと、いつも考えを巡らせているんだ。だから俺が妹株式会社を起こしたいって相談した時に、ひとくち乗ってやるから商売がうまくいったら俺を将来雇用してくれ! って言いだしてね」
「ひとくちって、どれぐらいの額なの?」
「まあ一〇〇万だ」
「結構な額じゃないの!」

 舞華がつばを飲み込みながら返事をした。父親からアルバイトも禁止されている舞華からすると、一〇〇万という金額はきっと大金なのだろう。

「俺が用意している軍資金と併せたら四〇〇万になる。会社設立の資金源としては強力な助っ人だ」
「ちょっと待って─」

 思い出した様に視線を上げて舞華が口を開く。

「お兄さんも後を継ぎたくないって言ってたけど、妹の雅美さんも料理屋さんを継ぐのが嫌なんだったわね?」
「ああ。何かやりたい事があるとかは聞いた事がないけど、就職でも進学でもどこか京都以外のところに行きたいって話は雅彦や俺にもさんざん愚痴ってるしな」
「じゃあ、五條田さんの家に雅美さんを住まわせればいいのよ」

 舞華が唐突にそんな事を言い出した。

「はぁ? 雅美を、ここにぃ?」
「そうよ。この部屋に住んでもらって、妹資本になってもらうの。そうすれば妹資本は特区内にっていう条件がクリア出来るじゃない」

 いとも簡単そうな口ぶりでドヤ顔の舞華が言ってのけた。

「いや本人の意思も確認していないのに、何言ってるんだ舞華は……」
「そんなの、それこそ本人に聞いてみなくちゃわかんないじゃない。だって京都から出たいんでしょ? 雅美さんも。それなら妹資本になるのが丁度いいじゃない。妹資本になって妹株学園に転校すれば京都から離れられるし、そのまま会社を一緒にやってれば跡を継がなくてもいいでしょ」
「いや、そりゃそうだけどさ」
「それにお店の跡継ぎならお兄さんの雅彦さんがいるじゃないの。跡継ぎはお兄さんに頑張ってもらって、妹さんを資本にする件も家族を説得してもらえばいいのよ」
「本気で言ってるのか、舞華は」
「あんたこそ、妹株式会社を作るのは本気じゃなかったって言うの? ご冗談さん」
「ご冗談じゃねえ、五條田だっての!」

 もちろん譲が妹株式会社を起こそうとしているのは本気も本気である。断じてご冗談なんかじゃない。

「わ、わかった。電話する」

 舞華の高圧的な態度にビビりながら、譲はカクカクうなずいた。

「今すぐ電話して頂戴」
「え、今やるの?」
「実行力というのが大事なのよ。あんた、普段はせっかちな癖に、こういう時は引っ込み思案なのね……時間は有限なんだから無駄にしない!」

 机の上に放り出していたスマホをアゴで示しながら、舞華が有無を言わさぬ口調で命令を下した。

「今日はちょうど土曜日だから、雅美さんも家にいる可能性が高いわよ。下手に考えるより、まず行動しようよ」

 スマホを取り上げて、連絡先一覧から雅彦のケータイ番号を見つけコール音が鳴るのを確認した。しばらくすると相手が電話を受けたらしい。

「もしもし譲です、久しぶり。今、時間大丈夫? うんえっと、前から話していた妹株式会社の件なんだけど、今日妹になってくれるって女の子に事業説明をやっていたんや。うん、とりあえずは前向きにOKをもらえた。それでお前んとこの妹なんだけど、雅美もうちで妹資本にならないかってもちかけようと思って」

 相手が電話に出た事を指でサインを作って舞華に教えながら、譲が話を続ける。

「そう、あいつ上京したがってたやん? 今雅美いる? そうなんや、妹株式会社の話、雅美にもした? それなら話が早い」

 ふたたび舞華に視線を向けて合図を送った。
どうやら兄の雅彦は、譲がもちかけていた妹株式会社への投資の件をそれとなく妹にも話していたらしい。

「もしもし雅美? お久しぶり、譲やで。元気してた? 突然だけどお前、上京する気とかある? 今俺、妹資本になってくれる女の子探してるところでさ、お前の事思い出したんだわ。兄貴から聞いてるやろ?」

 電話先に出た雅美に、かいつまんで説明をはじめる。
ひとり目の妹候補である舞華ととりあえずの話がついた事と、もう少し妹の人数が必要だから協力して欲しいという事。学校については政府が指定した学校法人妹株学園という養成学校に転校してもらえると助かる事。住居についてはひとまず譲の部屋に下宿してみてはどうかという事。

 少し前に舞華と話していた内容をすらすらと説明していると、電話先の雅美は快活に「ええやん!」「兄貴に聞いとったで!」「面白そうやん!」と元気のいい声を飛ばしてきて、どうやらその声はスマホから舞華にも漏れ聞こえていたらしい。好感触と見て取った舞華が顔を近づけてスマホに耳を寄せてきた。

「どうせお前んところ、兄貴が実家に戻ったんだしあいつが店を継ぐ流れになってるんやろ?それやったらこの際上京しちゃって、既成事実作ったらええねん。せやで。ビジネスやビジネス、銭儲けや。東京でそのまま就職と進学をいっしょにするようなもんやがな」
電話先で「それやがな!」「ほんまかいな!」と好感触の雅美につられてか、譲も徐々に饒舌(じょうぜつ)になっていった。

「そうか、そんなら兄貴に叔父さんと叔母さんの説得を頼んだらええねん。あいつも出資するビジネスやし、上手くいったら実家の料理屋の宣伝もやってやるさかい言うて」

 最後に資料は兄貴の雅彦にメールですでに送ってあるから、事業計画書はそれを両親に見せたらいいと締めくくった。

「そうかそうか。転校手続きとかは任せとき、俺があんじょうやったるさかい」

 ほなな、と譲は言い終えて電話をしめくくった。
舞華に向き直って譲はガッツポーズをした。

「いやぁ舞華くん。君の言った通り実行力こそが結果をもたらしたよ。雅美のやつ案外ノリノリだったぜ!」
「よ、よかったわね。だから言ったとおりでしょ。考えるより前にまず行動すべきよ、これからは」
「せやな!」

 それと、と意外にもトントン拍子に話が進んで少し驚いた表情の舞華が言い添えた。

「五條田さん、今電話してるときちょっと関西弁だった」
「そ、そうか?」
「けど、本当によかったわね。これでとりあえず妹ふたりは確定、と」

「まだ叔父さんと叔母さんの説得が残ってるけどな。それに舞華のご両親にも事業説明に伺わないといけないしね」

 譲がそうボソリと口にすると、急に現実に引き戻された様に舞華の表情が厳しいものになってしまった。

「そうよ。それが最大の難関かもしれないわ……」

本編に続く

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